ジャック・オ・ランタンはカボチャをくり抜いて作った照明です。
ハロウィーンの飾りとして有名ですね。
漫画やゲームなどのポップカルチャーではカボチャ頭のモンスターとして登場することもあります。でもジャック・オー・ランタンそのものはモンスターではなく照明のこと。
ジャック・オ・ランタン( jack-o’-lantern )という言葉がハロウインのカボチャの照明に使われだしたのは19世紀のアメリカです。
ジャックって誰?
ジャック・オ・ランタン( jack-o’-lantern )の言葉は17世紀のイギリスにありました。
言葉の意味は「ランタンを持つジャック」。
当時のイギリスでは「知らない男性」を意味する言葉として「ジャック」が使われていました。「ジャック」という名の誰かがいたのではなく、ランタンを持つよく知らない男くらいの意味でした。
当時、夜の見回りのためにランタンを持って巡回する人や、夜の外出時にランタンを持っている男を意味する言葉でした。
人魂
ところが「ジャック・オ・ランタン」は別の意味でも使われました。
自然界では沼地や湿地帯で火の玉が発生することがあります。腐敗した動植物からメタンガスやリンが発生して引火したものですが、当時の人々は霊的なものが光らせていると考えました。
日本では「鬼火」「狐火」「人魂」とよばれるものです。
ローマ帝国時代にはラテン語で イグニスファトゥス(ignis fatuus)と呼ばれました。意味は「愚かな火」です。
中世のイギリスではこの人魂を「ジャック・オ・ランタン」とか「ウィル・オ・ウィスプ (will-o’-the-wisp)といいました。
ウイスプ(wisp)とは松明のような照明器具のことです。ウィル(Will)という名のスプライト(sprit=精霊)が松明を持っている。と考えたので ウィル・オ・ウィスプ (will-o’-the-wisp)とは「松明を持ったウィルという名の精霊」という意味です。このウィルも特に決まった精霊がいるわけではありません。ジャックと同じ、招待はわからないけど「とりあえず付けた名前」です。
ハロウインの照明はカボチャではなくカブだった
ハロウィーンの原型はアイルランドではじまったといわれます。
アイルランドやスコットランドではハロウィーンではカブやビートをくり抜いた照明を作りました。
ただくり抜くのではなく、人の顔に見えるように目や口の形にくり抜き、怖い顔、変な顔にするのが多かったようです。そしてくりぬいたカブに炭の残り火やろうそくを入れて照明にしたのでした。
もともとハロウィーンのもとになったサウィン祭りは収穫期が終わった後にする祭りです。祖先が帰ってくる祭りであると同時に収穫を感謝する祭りでもあったのです。
ハロウィーンでカブやビートを使ったのは、収穫の後なのでカブやビートが豊富にあったからなのでしょう。
カブやビートで作った照明は霊的な力をもち、悪霊から身を守ってくれると考えられました。ハロウィーンの日は悪霊がやって来ると考えられていました。そこで人々は窓辺や家の入口に起きました。
あるいは人を怖がらせて不審者を近づけないようにする目的もあったのかもしれません。
カボチャのランタンは代用品
19世紀。アイルランドの移民者が北アメリカにハロウィーンの習慣を伝えました。ところが北アメリカにはカブやビートがあまりません。そこで南北アメリカ原産で、北アメリカでも豊富に取れるカボチャ(パンプキン)を代用して作りました。
つまりカボチャのランタンは代用品だったのです。でも今ではカボチャのランタンがハロウィーンの代名詞になりました。
ちなみにハロウィーンで使うカボチャはパンプキン(pumpkin)という品種。皮がオレンジ色のカボチャです。日本にある皮が緑色のカボチャはスクウォッシュ(squash) といいます。
とはいえパンプキンそのものがカブやビートの代用品。ランタンになる野菜なら何でもいいのかもしれません。
どうして鬼火がハロウィーンの照明になったの?
ところで。鬼火を意味する「ジャック・オ・ランタン」がなぜハロウィーンのカボチャの照明の意味にになったのでしょうか?
それについては詳しいことはわかっていません。
霊的な力をもつとされた照明と鬼火を重ね合わせたのかもしれません。
でもジャック・オ・ランタンには面白い話があります。
ケチなジャック(Stingy Jack)の物語
アイルランドにはジャックと悪魔の物語があります。いくつかのバージョンがあるのですが代表的なものを紹介しましょう。
アイルランドのある町にスティンジー・ジャック(ケチなジャック)という酔っぱらい住んでいました。ジャックは詐欺師として有名でした。
サタンはケチなジャックの噂を聞きました。でもサタンは納得いきません。そこでジャックが評判通りに下劣な奴なのか確かめにきました。
ジャックは酔っ払って道をあるいていました。すると道に死体が倒れています。ところがそれはサタンが変装したものでした。ジャックはサタンが迎えに来たのでもう死は近いと思いました。ジャックは最期の願いにエールを飲ませてくれとサタンに言いました。サタンはジャックの願いを聞きパブに連れていきたくさんのお酒を飲ませました。
ジャックはお酒を飲み終えた後、「バーテンダーに代金を払うのでサタンが銀貨に変身してほしい」と頼みました。サタンは最後まで人を騙そうとするジャックに感銘して銀貨に変身してジャックのポケットに入りました。ところがジャックはサタンの入ったポケットに十字架を入れました。サタンは外に出られなくなりました。ジャックはサタンを開放する代わりに10年命を延ばしてもらいました。
サタンは開放され、ジャックはさらに10年生きました。
10年後。ジャックはサタンと出会いました。ジャックはサタンが自分を地獄につれていくじゅんびをしていました。ジャックは植えているのでりんごを1つ食べたいとサタンに言いました。サタンはまたしてもジャックの願いを聞き、近くのりんごの木に登りました。するとジャックはりんごの根本を十字架で囲いました。サタンは降りられません。
ジャックは自分を地獄に連れて行かないようにしてほしいと言いました。サタンはしかたなくジャックの言うことを聞きジャックを連れて行くのを諦めました。
ジャックはサタンを開放し、ジャックは地獄行きをまぬがれました。
しかしあるときジャックは酒を飲みすぎて死亡しました。
ジャックの魂は天国に行こうとしましたが、神から「詐欺と酒という罪深い生活を続けたので天国入りを拒否する」といわれました。
ジャックの魂は地獄に行き、地獄に入れてほしいと頼みました。ところがサタンは「ジャックを地獄に連れて行かない」と約束しているのでジャックを地獄に入れることができませんでした。サタンは他の人への警告とするためにジャックに残り火を与え冥界の住人の一員である証拠としました。
そして、天国にも地獄にも行けないジャックはこの世の終わりまで、善と悪のあいだでさまようことになったのです。ジャックは窪んだカブに残り火を入れ、その灯りだけを頼りにさまようのでした。
アイルランドの人々は彼を「ランタンのジャック」と呼び。それから単に「ジャック・オ・ランタン」と呼びました。
というわけで。ジャックとランタンがこの話で結びつきます。
もっとも。この話が先なのか、カブの照明をジャック・オ・ランタンと呼んだのが先なのかはわかりません。話の内容からすると新しいようにも思えます。少なくともカブのランタンや、ジャック・オー・ランタン(ランタンを持つ男の意味)の言葉が先にあってその後で作られた話でしょう。
アイルランドの人々は死霊やランタンのジャックを脅かして避けるために、カブで作ったランタンをハロウィーンの日に飾りました。それがアメリカに伝わりカボチャ(パンプキン)のランタンになったのです。
ハロウィーンのジャック・オー・ランタンひとつをとってもこんな歴史と伝説があったのです。おもしろいですね。
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