13日の金曜日は西洋では不吉、縁起が悪いといわれます。
日本でもホラー映画「13日の金曜日」が公開された影響で「不吉な日なんだ」というイメージが広まりました。
キリスト教の影響で13日の金曜日が不吉とよくいわれます。でもイタリア・スペイン・ポルトガル・ギリシャなどラテン系のキリスト教国ではあまり不吉なイメージが広がっていません。
イギリス・ドイツ・フランスなどは13日の金曜日が不吉と信じる人が多いようです。
アメリカは建国当初は州の数が13だったこともあり13は悪い数ではありませんでした。ところがいつの間にか迷信が広がって悪い数になりました。
英語圏では13恐怖症(Triskaidekaphobia:トリセカイドカフォビア)という言葉まであるくらいです。
日本や中国・韓国など漢字使用国(元使用国含む)で「”四”は ”死”を連想させるから不吉」と考えるのに似ています。
でも欧米でも国によってバラツキがあります。
なぜ13日の金曜日が不吉なのでしょうか?
13日の金曜日が不吉な理由を紹介します。
13が不吉なわけとは
13が不吉になった理由はいくつか説があります。主な説を紹介しましょう。
処刑された日 説
キリスト教の伝説でイエスが磔刑(はりつけ)になった日が13日の金曜日だったから。とよく言われます。
聖書の内容から「金曜日に処刑された」ことはわかります。でも「13日」に処刑されたとは書かれていません。
処刑当日はユダヤの暦でニサン月の14日(現在の暦で4月上旬)でした(福音書によって違うものもあります)。処刑日が不吉の原因なら「14日の金曜日」のはずです。
でもそうはなってません。
イエス磔刑の日は後の時代に生まれた都市伝説なのです。
最後の晩餐に集まった13人 説
最後の晩餐に集まったのが13人だったからという説があります。
処刑になる前日。ニサン月の13日の木曜日にイエスと12人の弟子(使徒)が集まりました。
イエスは食事に集まった弟子たちに自分の死を予言。そして裏切り者がいると伝えます。翌日イエスは捕らえられ処刑されました。イスカリオテのユダが裏切ったからです。ユダはイエスが認めた12使徒のひとり。
よく間違われますがユダは13番めの使徒ではありません。
12番目の使徒です。
最後の晩餐の日にイエスを含めて13人集まったのが不吉とされたともいわれます。
ところがキリスト教以外にも13を不吉な数にしていた人たちがいます。
北欧神話13めの神ロキ 説
北欧神話の光の神バルドルの死と関係しているという説があります。
バルドルは神々の王オーディーンと女王フリッグの息子。バルドルは美しく光の神といわれ人々から尊敬されていました。
ある日、バルドルを祝うために12人の神が集まりました。呼ばれなかったロキは勝手に出席。強引に13人目の客人になりました。そして腹いせに悪知恵を働かせてバルドルを殺してしまいます。
怒った神々はロキを追放。やがてラグナロク(神々の滅亡)の原因になります。
ロキが13番めの神だったので13が不吉な数と考えられた。といわれます。
北欧神話なのでスウェーデンやノルウェーだけが関係していると思うかもしれません。ところが北欧の人々とドイツ・オーストリア・イギリス・フランスなど西欧諸国の祖先はゲルマン系の民族。英語やドイツ語にも北欧神話と同じ起源をもつ単語がいくつもあります。
キリスト教が広まる前は西欧の人々も北欧神話の世界観に似た信仰をもっていました。北欧はキリスト教の布教が遅れたのでたまたま神話が残ったのです。
テンプル騎士団壊滅の日 説
フランス国王・フィリップ4世は1307年10月13日(金曜日)テンプル騎士団を逮捕、拷問にかけたあと資産没収、組織を壊滅させました。
テンプル騎士団は19世紀になるまで異端扱いされていました。名誉が回復したのは20世紀になってから。
異端組織を壊滅させた日なら不吉な日どころか13日が記念すべき日になるはずです。
実際、テンプル騎士団が壊滅した1307年から20世紀になるまで13日の金曜日が不吉という迷信はありませんでした。
テンプル騎士団壊滅の日が「13日の金曜日=不吉」は都市伝説です。
でも小説や映画など何度か娯楽作品の中でネタになりました。
西洋でははみ出し物の数
古来、西洋文明では12を完全な数と考えていました。黄道十二宮。12ヶ月。半日(日の出から日没まで12時間。オリンポスの12神。オーディーンの12人の息子など。1ダース=12個という数え方もありますね。
古来よりヨーロッパの人々は12をまとまりの良い数。と考えていました。
だからまとまりから外れる13は調和を乱す象徴として扱われました。
もともとあった違和感。それに神話や伝説が重なって13が不吉という考えが広まったのでしょう。
13だけではない
13が凶数はヨーロッパ共通ではありません。
イタリアでは13はラッキナンバー。
17が凶数です。ローマ数字の「XVII=17」を並べ替えると「 XIVI=私は生きていた(今は死んでる)」になるからです。でもアメリカ文化の影響で若い世代は13を凶数と考えるようです。
でもイタリアは古代ローマ帝国の中心地。ヨーロッパでは一番早くキリスト教が普及した土地ですよね。それなのにアメリカの影響で13が凶数という考えが広まったなんて。
13が不吉なのはキリスト教由来ではないのです。
金曜日が不吉なわけ
イエスが磔刑になった日 説
金曜日が不吉なのはイエスが処刑されたのが金曜日だったからと広く信じられています。
聖書にもイエスが磔刑になったのはユダヤの安息日の前日だったと書かれています。ユダヤ教の安息日は土曜日なのでその前日は金曜日です。
そのため中世のカトリックには「金曜日の犠牲」という行事があり、金曜日は肉を食べないようにしました。現代でもアルコールやタバコの制限、奉仕活動をするなど。個人がなにかを我慢してイエスの苦しみを分かち合おうとする人たちもいます。
聖書に書かれていればさすがにイタリアでも金曜日が不吉と考えるようです。イタリアでは17日の金曜日が不吉な日なのです。
女神の日 説
英語で金曜日はフライデー(Friday)。
意味は フリッグの日。またはフレイアの日。
フリッグは北欧神話の神々の女王。フレイアは北欧神話の魔法と美の女神。
英語の曜日名は北欧神話(ゲルマン神話)の神様の名前から付けられました。もともとイギリス人(アングロサクソン)はゲルマン系の民族だったからです。
英語圏のキリスト教徒は異教(といっても祖先が信じていた神話ですが)の女神の名のついた金曜日を「魔女になったフリッグ(フレイア)が悪魔を連れて復讐する日だ」と考えました。そのせいで金曜日が不吉という認識が広まりました。
キリスト教では女神崇拝は禁止ですから。女神の日は魔女の日にされて貶められたのです。
逆にいえば女神が嫌いでなければ金曜日を恐れる必要はありません。
不吉な曜日は金曜日だけじゃない
スペインとギリシャは火曜日が不吉な日です。それはスペイン語では火曜日はマレテス。意味はマルス(アレス)の日です。
マルスはローマ神話の戦いの神、アレスはギリシャ神話の戦いの神。マルスとアレスは同じ神と考えられました。火星の名前にもなっています。
戦いの神アレス(マルス)が支配する日は争いが起こりやすいと考えたのです。
ラテン系の殆どの国で火曜日は火星に関連付けて名付けられています。
ギリシャでも火曜日(イメラ・アレオス)は不吉な日。やはり戦いの神が支配する日だからよくないことがおきやすいと考えられたのです。
さらに、ビザンチン帝国の首都・コンスタンチノープルはオスマン帝国に占領されイスタンブールになりました。コンスタンチノープル壊滅の日が火曜日でした。ギリシャ正教の大聖堂ハギア・ソフィアも占領されイスラム教の施設アヤソフィアになりました。
ギリシャにとって2重の意味で火曜日が不吉な日になりました。
不運 + 不運 = 超不運
結局のところ 13日の金曜日が不運な理由はありません。
古より 13が不吉な数。金曜日が不吉な曜日。という別々の伝説はありました。
そしていつの間にが合体して「超不運な日」ができたのです。
人間の心理は不安をあおるものには興味をそそられます。
おそらく人を不安にして稼いでいる詐欺師や霊感商法まがいの宗教家が人々を怖がらせるために広めたのでしょう。
そして、現代になるとメディアが発達。
一部の人達の間で信じられていた迷信が全国に拡散。そして国を超えて広がります。
拡散に貢献したのが小説・映画などの大衆向けの娯楽作品です。
煽り商法でマスメディアが広めたデマ?
1907年にトーマス・W・ローソンが小説「13日の金曜日」を出版。
悪徳ブローカーが迷信を利用してウォール街でパニックを引き起こす内容です。
この小説は大人気になり、13日の金曜日に株取引を拒否するブローカーが続出する騒ぎになりました。
この小説のヒットが「13日の金曜日が不吉」と多くの人が考えるきっかけのようです。
その後も13日の金曜日を題材にした作品が続々と作られます。
1955年のモーリス・ドルーオンの小説「鉄王」でフィリップ4世のテンプル騎士団逮捕の日を紹介。
1989年。ジョン・J・ロビンソンの小説「血の中で生まれた:フリーメーソンの失われた秘密」
最近では2003年。ダン・ブラウンの小説「ダ・ヴィンチ・コード」など。
「テンプル騎士団の悲劇」は何度もネタになり13日の金曜日=不吉の伝説が繰り返されます。
100年近く娯楽作品でネタにされました。
つまり。むかしから「13が不吉」。「金曜日は不吉」という別々の漠然とした迷信はありました。
でもはっきりと「13日の金曜日が不吉」と書いたのは小説だったのです。
そして13日の金曜日不吉伝説は独り歩き。ついに13日の金曜日人気?を決定づける作品が登場。
あのホラー映画。
ジェイソンが登場する「13日の金曜日」です。
日本でもこの映画で「不吉な日」を知った人が多いです。
ジェイソンの行動は作り話と分かっていても「13日の金曜日は不吉なんだ」と信じた人は多いです。
日本に限れば13日の金曜日が不吉になったのはこの映画のせい。といってもいいです。
つまり。13日の金曜日が不吉なのはマスメディアが作り出したフェイクなのです。
じつのところ。現代では神話や伝説、宗教よりも、小説、マンガ、テレビ、映画などポップカルチャー(大衆文化)の方が拡散力が強いです。
ネットの発達した現代ならさらに迷信が広がりやすいです。
現代ではマスメディアと娯楽作品の方が宗教以上に影響力があります。
有名な「ツタンカーメンの呪い」「平将門の呪い」だって新聞社が売上を伸ばすために作ったフェイクニュースです。
フェイクニュースというとインターネットの情報と思う人が多いかもしれません。確かにそういった部分もあります。
でも歴史をみればフェイクニュースの一番の発信元はマスメディアなのです。
何度も書きますけれど。
13日の金曜日が不吉なのは現代人の作ったフェイクニュース。
信仰や伝説とは関係ありません。
フェイクでも人々が信じればそれは真実になってしまいます。
でも13は本当に悪い日でしょうか?
13は吉数
実は、古代より世界各地では13は縁起の良い数でした。
古代のエジプト・ユダヤ・中国など古い文明では13をよい数と考えている地域が多いです。
むしろユダヤや異教の吉数だからキリスト教徒が嫌ったのかもしれません。
日本でも現代では良くも悪くもない数のようなあつかいですが。江戸時代までは良い数でした。陰陽道では十三は吉数です。仏教でもよく使われます。
明治時代になって陰陽道などが禁止になると十三が吉数という考えは廃れました。
現代では十三回忌。十三仏。十三仏から派生した十三塚伝説など、十三は仏事や仏教関係でよく出てきます。
仏事なので「幸運」のイメージは薄いかもしれませんが、良い意味があるから採用しているのです。
それに供養のための重要な意味があるので決して悪い数ではありません。
13日の金曜日が不吉な根拠はない
西洋では13がなんとなく不吉な数字。
金曜日はキリスト教では不吉。
という漠然とした人々の想いはありました。
でもはっきりと「13日の金曜日は縁起が悪い」
となったのは19世紀以降の現代の西洋人が作った迷信。
はっきりした根拠がないのです。
はっきりした根拠がないからこそ、あれこれと神話や歴史を引っ張り出してこじつけるのです。
もっとはっきり言えば。
現代になってマスメディアが金儲けのために作った都市伝説です。
信じる理由はありません。
迷信でも信じることで前向きに生きられるなら信じてもいいと思います。
でも。
悪くないものを悪いと思い込むのは精神衛生上よくないですよね。
自分で不幸を呼び寄せているだけですから。
メディアの煽りには引っかからないようにしましょう。
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