蜘蛛(クモ)は人間に馴染み深い生き物でした。
古来より様々な伝説や物語に登場します。いい意味でも、悪い意味でも様々な伝説や物語が存在します。
世界各地の蜘蛛にまつわる伝説を紹介します。
誤解から始まった猛毒の蜘蛛とされるタランチュラの伝説も紹介します。
蜘蛛の伝説
中国 機織りの上達を占う蜘蛛
機織りや裁縫の技術が上手になるための儀式で蜘蛛が大切な役割をはたします。
古代中国の南北朝時代に書かれた「荊楚歳時記」には七夕の風習が載っています。
7月7日の夜。女性たちは機織りが上手になるように祈願していました。
7つの穴がある針に色とりどりの糸を通して飾り。酒や瓜、果物をお供えしました。このときお供え物の乾燥した瓜の中に小さな蜘蛛を入れました。蜘蛛が網をはると願いが叶う。とされました。
後に民間にも伝わります。
「東京夢華録」という本には北宋時代の風習が書かれています。(ここでいう東京とは北宋の首都・開封のことです)
女性たちは月に向かって針の糸を通し。箱の中に蜘蛛を入れました。次の日「蜘蛛が丸い網をはっていれば裁縫が上手になる」とされました。
当時の女性は機織りや裁縫が上手だと良いお嫁さんになれると言われていました。また牽牛と織女の伝説にあやかって良い人と結ばれたいという願いを込めていました。
七夕の夜に願いをすると、技術が身につくだけでなく良縁の効果もあると信じられたのです。
このとき願いが叶うかどうかを占うために蜘蛛が使われました。
蜘蛛は神様のメッセージを伝える役目をしているのですね。
蜘蛛が貴方の目の前で網をはるのは、願いが叶うというサインかもしれません。
イギリス クモは努力と忍耐の象徴
イギリスではクモに良いイメージをもつことが多いようです。
クモは「努力と忍耐、そして希望の象徴」とされます。
クモが精密で美しい巣を時間をかけて作ること。
獲物が来るまでじっと待っているからです。
ロバート・ブルースとクモの伝説
イギリスにはクモについて有名な伝説があります。その伝説を簡単に紹介します。
スコットランド史上最も偉大な国王といわれるロバート1世にまつわる伝説です。
14世紀。イギリスがまだ統一されてなかった時代。北部のスコットランドと南部のイングランドが戦争をしていました。
スコットランドの貴族、ロバート・ブルースは王位継承の権利をもつ家系でした。しかし先代の王がなくなった後、争いが起こりイングランドとの戦いに破れました。敗退したロバートはアイルランド北部の海に浮かぶラスリン島に逃れて隠れていました。
しかし彼がいない間に残された家族や兄弟が捕まり処刑されたという話が届きます。絶望したロバートは、イングランドへの抵抗を続けるか止めるか悩みました。あるとき彼が身を隠している小屋に横たわっているとクモが見えました。
クモは何度も巣を作ろうと挑戦していましたが失敗していました。ロバートはそのクモを見て、自分がイングランドと6回戦って負けたことを思い出しました。ロバートはクモに自分の境遇を重ねました。
そして「私はこのクモに訪れる幸運に導かれることにしよう。クモが巣を作るのに成功したら、イングランドとの戦いを続けよう。もしこの虫がもう一度挑戦して成功したら、私はスコットランドで7回目の挑戦をしよう」と考えました。
ロバートが見ているとそのクモは7回目で巣を作るのに成功しました。そして再起したロバートはイングランドとの戦いに勝ってスコットランド国王になりました。以後、ブルースの名を受け継ぐ人たちはクモは殺さなかったということです。
この伝説ではクモは努力と忍耐の象徴。希望の生き物として登場します。
ロバートがイングランドとの戦いに負けた後で姿を隠し、再起して勝ったのは事実です。でもその間にクモを見たかはわかっていません。
ロバートの戦友ジェームズ・ダグラスが戦いに負けて洞窟に隠れていたクモを見た。という記録はあるのでダグラスの逸話が混ざってしまった可能性もあります。
英語圏ではこの伝説は有名なようです。
歴史家の中ではロバートと蜘蛛の話は事実ではないと考えられていますが。重要なのはイギリスの人々が蜘蛛にはそのような能力があると信じていたことです。
イギリスだけではありません。もっと古い時代にクモが幸運の虫。という伝説があります。
中東 偉人を危険から守った蜘蛛
蜘蛛は幸運の生き物といわれる元になった話。
蜘蛛が有名人の危機を救った話を紹介します。
ダビデを救ったクモ:ユダヤの伝説
ユダヤ教の伝承(アッガーダー)によると。
古代イスラエル王国の戦士ダビデはペリシテとの戦争で手柄をたてて国民から人気がありました。国王サウルはダビデの人気が妬ましくなり、ダビデを殺そうとしました。ダビデは逃げて洞窟に隠れます。ダビデが隠れている間にクモが入り口に巣をはりました。追手達はクモの巣がある洞窟にはダビデは隠れてないと思って通り過ぎてしまいます。
こうしてダビデは命が助かりました。この後、サウルはペリシテとの戦いで戦死。ダビデがイスラエル国王になります。
ダビデがサウル王に追われる話は聖書にもありますがクモは出てきません。キリスト教ではクモは快く思われていないようです。
ムハンマドを救ったクモ:イスラムの伝説
イスラムの伝承(ハディース)にも似たような話があります。
ムハンマドと彼の仲間は敵対するクライシュ族の兵士たちに追われていました。ムマンマド達は洞窟に隠れました。すると神がクモに巣を張るように命じました。ムハンマドが隠れている洞窟にはクモの巣が張られました。兵士たちは「クモの巣があるのは人が入ってない証拠だ」と考え洞窟を調べずに通り過ぎました。こうしてムハンマド達は助かりました。
ダビデの話とよく似ています。たぶん元は同じでしょう。
こうしたダビデの伝説がイギリスにも伝わり、クモは幸運の生き物としてロバートの伝説になった可能性はありますね。
スコットランドは西欧でもカトリックの影響が比較的少ない地域。ケルトの習慣やアニミズム(精霊信仰)的な考えが残ってる地域です。聖書では消されたクモの巣の話でも違和感なく取り入れたのかもしれません。
クモを大切にしていると、あなたに迫った危険から守ってくれる幸運の生き物かもしれませんね。
タランチュラに噛まれると踊り続けないと死ぬ?
イタリアにはタランチュラという毒蜘蛛がいると信じられていました。イタリア南部のタラントという町が語源だといわれます。
この蜘蛛に噛まれるとタランティズムという異常な状態になってしまいます。タランティズムになった人は全身の倦怠感と精神異常がおきて、ジャンプして汗をかかないと毒が消えないといわれます。
そのために考案されたのがタランテラという踊りだともいわれます。
イタリアでは大きくて目立つコモリグモが伝説のタランチュラだと誤解されました。タランチュラコモリグモの毒は昆虫を殺すための毒なので人間にはほとんど効きません。
その後、アメリカ大陸に渡ったヨーロッパ人は大きくて怖そうな蜘蛛をみつけるとタランチュラと名付けました。確かに見た目は怖いかもしれませんが、そのどれもが人を殺すほどの猛毒をもつ蜘蛛ではありません。
イタリアでは16世紀、17世紀にタランティズムが発生したとされます。でも実際には毒蜘蛛が原因ではなく集団ヒステリーのような心理的なものが原因だったとされます。
結局、猛毒をもつタランチュラは存在しませんが、怖い蜘蛛のイメージだけが広まって、様々な物語や映画、ドラマ、ゲームなどのポップカルチャーにも影響を与えました。
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ここで紹介した意外にもクモのスピリチュアルな意味があります。
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